2023年度 新任教授記念講演会要旨
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真菌アレルギーと呼吸器疾患〜臨床医にとって研究とは?〜
小熊 剛(内科学系呼吸器内科学)
「臨床医にとって研究とは?」難しい問いである。私は東海大学赴任前、大学関連施設での研究中心の生活と市中病院での呼吸器内科臨床医としての生活を3-5年周期で交互に繰り返してきた。当時、市中病院での呼吸器専門医の業務は多忙を極め、いつの日か私の診療は効率を優先した型通りのものとなっていた。その硬直した視線では、診る症例はどれも類似したcommon diseaseばかりに見えた。しかし、その後の研究中心の生活は、新規性を常に探す研究者としての視点を私に思い出させた。臨床に復帰した時、新鮮な柔らかい視線で診た市中病院での呼吸器臨床は、興味深い症例に溢れていた。東海大学赴任後まもなく、厳しい環境の中で始めたアレルギー性気管支肺真菌症(ABPM)の臨床研究も10年以上が経過した。当初、私達のABPMの臨床経験は乏しかったが、2回の全国調査・診断基準の策定等の経験を通じて、本疾患に対する理解が深まり、今では非典型例でも診断できるようになった。私はこう思う、臨床医にとって研究とは、「自分の臨床を深めてくれるもの」であると。【2023.7.5】
東海大学呼吸器外科に魅せられて
中川 知己(外科学系呼吸器外科学)
僕が東海大学の門を叩いたのは12歳の時です。東海大学附属浦安中学校から数えて35年が経ちました。もはや人生の大半は東海大学と共にあり、東海大学に支えて頂いて今日まで生きて参りました。そんな中、運命的にも東海大学呼吸器外科に出会いました。標準開胸創を徐々に小さくしていくことでたどり着いたニ窓法手術、そしてさらに創を小さくしたone window & one puncture法は岩﨑正之先生が開発された術式です。この手術法を後世に伝えていくことこそが僕の大きな使命であると考えています。これからはロボットサージェリーの時代です。しかし、標準開胸の手術は今までもこれからも呼吸器外科手術の基本であることは疑いようがなく、同じ意義を持つニ窓法は永遠に色褪せない手術法であると確信しております。 【2023.7.5】
東海大学小児科での不思議な縁 ~つくったマウス・出会ったヒト~
新村 文男(総合診療学系小児科学)
東海大学にお世話になり20年余りが経過しました。小児科に所属しつつもレニン・アンジオテンシン系のコンディショナルターゲッティングによる遺伝子改変マウスの作製から東海大学での仕事が始まりました。その後、小児科の臨床に携わりNaxという濃度依存性Naチャネルに対する自己抗体により本態性高Na血症を呈した症例に出会い、基礎的検討も含めてNeuron誌に報告できました。その患者さんの解析にあたり共同研究した基礎生物学研究所(岡崎市)の先生は偶然にも東海大学で作成していた遺伝子改変マウスを必要としていたことが途中で判明し、口喝や塩分摂取における脳内アンジオテンシン受容体の役割を解明する研究にも関わることができました。また、遺伝子改変マウスから得られた新たな現象がヒトでも存在していることを日ごろ拝見している患者さんで証明できるなど、東海大学小児科で臨床を続けることでこそ得られた不思議な縁を感じました。 【2023.7.5】
子どもの周囲の大人たち、腸内細菌と宿主-そこに通底するもの-
三上 克央(総合診療学系精神科学)
大学院以降、腸内細菌叢の精神活動への影響をテーマに無菌マウスを用いた基礎実験を重ね、発達早期の腸内細菌叢が、不安や多動、攻撃性に影響を及ぼすことを明らかにした。今後は、特に宿主の攻撃性に焦点を当て、ヒトへの応用を試みたい。一方、子どもを専門とする精神科医として、後期研修医時代に多数経験した子どもの自殺未遂症例を契機に、子どもの自殺再企図防止の方策に取り組んできた。今後は、行政と連携し、我々の取り組みを社会に還元したい。この腸内細菌や子どもに通底する点は、単在することなく、周囲(腸内細菌にとっては宿主、子どもにとっては大人)との関係性の影響を強く受けながら存在することである。子どもでは、最も身近な大人は家族であり、家族との関係性の歴史に沈潜なければ、精神科治療が進まない症例がある。このような症例では、子どもが、幼児期からどんなことを感じ、表現し、あるいは我慢したりあきらめたりしたのかを、本人と家族、治療者とで丁寧に辿ると、子どもの心の問題を考える端緒を開くことができる。 【2023.7.5】