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2021年度 退任教授記念講演会要旨
《退任教授》氏名をクリックすると要旨が表示されます。
《退任教授》題目順
ゲノム医療推進と次なるパンデミックへの備え
宮地 勇人(基盤診療学系臨床検査学)
講演会では、奉職32年間(教授在職19年間)の活動を以下のごとく総括した。

【白血病の抗がん薬耐性の分子機構】
1981年慶應義塾大学医学部卒業後、急性白血病の治療反応性に関する臨床研究を踏まえて、抗がん薬耐性の分子機構を解明するため、米国City of Hope国立医療センターに留学した。帰国後、1990年1月に東海大学に赴任し、白血病の研究を継続した。

【診断システムの構築】
血液形態所見と遺伝子異常との関係性を明らかとするとともに、統合型の血液総合診断システムを導入した。その他、多領域の検査診断(心電図や超音波検査の判読、抗菌薬適正使用支援など)による診療支援と人材育成(初期研修医ローテート、臨床検査専門研修)の体制を構築した。

【院内感染対策の組織的活動】
25年間の組織的活動を通して、高度先進医療における安全基盤を構築した(院内感染対策チーム、院内感染対策室、リンクナースなど)。感染制御効果に関するエビデンスを作成した。

【新型コロナウイルス・パンデミック対応】
職員の接触者外来を早期に設置し、検査に基づく安全基盤を構築した。PCR検査の実態に関する全国調査、精度管理調査(厚生労働省)を踏まえて、感染危機管理における検査の在り方を国に提言した。

【ゲノム医療推進の活動】
遺伝子関連検査の標準化活動を踏まえて、検体検査の精度の確保に係る医療法等の改正のための環境・体制整備を行なった。次なるパンデミックへの備えとして、緊急時に速やかにPCR検査の立ち上げと拡充が行えるよう国家的な基盤整備、平時からのゲノム医療推進の重要性を提言した。

【今後の活動】
・新たな職場:新渡戸文化短期大学 臨床検査学科教授、副学長
・新たな職務:H.U. ビジネス コンプレックス アドバイザー(ゲノム、品質保証、人材育成)
・ゲノム医療推進の活動を継続する(国際標準化、アジア治験ネットワーク、外部精度管理調査・教育に係る恒常的組織の構築など)

【2022.2.24】
造血細胞移植の黎明期から歩んだ東海大学での40年間
矢部 普正(基盤診療学系先端医療科学・細胞移植再生医療科・小児科)
東海大学小児科の骨髄移植は1982年に始まり、私は同時に東海大学病院での研修を開始、以後40年間の多くを末梢血幹細胞移植や臍帯血移植を含む造血細胞移植の臨床と研究に携わってきました。骨髄移植が始まった当時は極めてリスクの高い治療でしたが、現在では移植後早期合併症での死亡は殆ど無く、また移植後の生活の質も向上して良好な社会生活を営めるようになり、再生不良性貧血では結婚して挙児に至る例も10数例まで増加しています。 東海大学小児科の造血細胞移植の特徴は白血病や再生不良性貧血だけでなく、遺伝性骨髄不全症候群、先天性代謝異常など、稀少難病に対する造血細胞移植でも世界に誇る良好な成績をあげてきたことです。特にファンコニ貧血では非血縁移植後の生存率を95%以上まで改善するなどのめざましい成果をあげ、さらに新規遺伝子(FANCT)の同定やアルデヒド代謝酵素欠損症候群という新規疾患の発見にもつながりました。【2022.2.24】
小児と小児科・小児科学
白井 孝之(内科学系消化器内科学)
東海大学在任は34年11ヶ月であり、伊勢原本院で22年11ヶ月、八王子病院9年、大磯病院3年の勤務であった。また、東京病院へは3ヶ月間内視鏡検査で伺った。都内で5年間研修した後、1987年より三輪教授主催の内科学6(現:消化器内科学)の助手に採用され、原澤助教授らとともにHelicobacter pyloriの臨床研究を開始した。検出法から始め、その後、十二指腸潰瘍の病態と関連づけた研究で学位を取得した。2000年に消化性潰瘍患者を対象に同菌の除菌療法が保険適応となったが、それまでに既に1000名以上の患者を研究的に治療し、再発抑制効果により大きく予後を改善させる事を実証した。また、北海道大学との共同研究に参画し、除菌治療が早期胃癌内視鏡治療後の異時性多発を抑制することを証明し、これがきっかけとなり慢性萎縮性胃炎の全ての患者が保険で除菌治療が受けられる様になった。その後、念願であった炎症性腸疾患の臨床研究に取り組んだ。折しも患者数は急増し、本院、八王子病院とも累積患者数は約500 名程になった。2000年以降は血球成分除去療法や抗体製剤など新規治療が出現し、これらの治療の適正化、効果予測などを模索した。また治験も積極的に導入し、15以上の薬剤、30以上の試験に参加し、約半数の市場化に漕ぎ着け、患者の治療選択肢を増やすことが出来た。これらの活動は国内外の学会にて報告し主題採用となることも多く、大いに充足感が得られた。内視鏡の機器、技術も発展し、消化管の早期癌の多くが内視鏡治療にて治療完結できる様になり、カプセル内視鏡やバルーン内視鏡により、それまで未踏の地であった小腸全体の画像確認が可能になった。内視鏡は少なからぬ負担を伴う検査であり、医療安全対策やクレーム対応に関わる場面も多かったが、この事が、患者目線で医療を考えるきっかけになった。  教育ではクリクラやOSCEの充実のため、3回にわたり米国に視察に行かせていただき、本場の医学教育を目の当たりにすることが出来、大いに参考になった。このように東海大学では大変多くのことが経験でき、退任まで退屈することがなく幸せであった。人的交流が多いのも大学の特徴と思う。若手の方には目先の診療手技の向上のみにとらわれず、1つの事を深く掘り下げ考察し、学会発表や討論、論文化を通じて自らの力とする大学ならではの醍醐味に気付き、味わっていただきたいものである。【2022.3.1】
児童精神医学との出会いと歩み、そして今後へのささやかな提言
松本 英夫(総合診療学系精神科学)
前半では、演者が統合失調症の精神薬理学に興味を持ち精神科学教室に入局後、児童精神医学と出会い、さらに小児の統合失調症の臨床研究へ進んでいった経緯について、東海大学の元教授である牧田清志先生や山崎晃資先生との思い出を紹介しながら述べた。その後、6年間勤務した国立療養所天竜病院での臨床経験のなかで、小児の統合失調症における生物学的な基礎研究の必要性を痛感し、疫学研究からMRIや機能的MRIなどを用いた脳科学研究に進んだことを紹介した。後半では、ノーベル文学賞作家であるカズオ・イシグロ氏の「クララとお日さま」のなかで、AIであるクララの方がヒトよりもはるかにヒトらしい、いわゆる人間的な「心」を持っていることが主題として描かれていることを示した。そして、このようなヒトとAIとの逆説的な関係は、既に精神医学のなかでも見ることができ、現在の精神医学がAIを目指していることを指摘した。そして、今後、医師過剰とsingularity(技術的特異点)の時代を迎えるにあたり、精神科医が生き残るためには、EBMだけでなく「感性に基づく発想」、すなわちアートな領域を磨く必要性について述べた。【2022.3.1】