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2021年度 新任教授記念講演会要旨
《新任教授》氏名をクリックすると要旨が表示されます。
脳虚血と炎症
安部 貴人(内科学系脳神経内科学)
脳虚血においては炎症性サイトカイン・ケモカインや接着因子の発現が虚血後1〜3日をピークとして認められ、好中球や単球などの白血球細胞浸潤の惹起と併せて、脳梗塞巣の増大に寄与すると考えられている。B型スカベンジャー受容体に属するCD36は、障害を受けた神経細胞から放出される自己組織由来炎症惹起因子(DAMPs)をリガンドとし、炎症シグナルの活性化に関わっている。また、先行する全身性の炎症が、その後の脳虚血に対して耐性をもたらす(preconditioning)ことが明らかとなり、急性期脳梗塞の新しい予防法の確立に資する可能性がある。マウスで効果を示した数々の新規神経保護薬は、臨床ではほとんど効果を示さなかったが、既存薬の再活用(Drug repositioning)で既に確立されている薬剤を他の疾患の治療に役立てることによって、新薬開発における時間とコストを削減することができる。[2021.6.21]
麻酔管理の標準化をめざして ―術中Goal directed therapy導入の試み―
伊藤 健二(外科学系麻酔科学)
大学病院は最新、最良の医療を提供することが常に求められる。一方で新人医療従事者の教育の場、経験の場でもある。この両立を成すためには医療行為の標準化が必須と考えている。特に麻酔管理でこの必要性が高い。麻酔管理の標準化を目標に、動的指標を用いた簡易的なGoal directed therapyを考案し、実践してきた。動脈ラインより得られる心拍出量、一回拍出量変動に目標値を設定し、麻酔管理、輸液管理を行う。プロトコールに則った管理は理解しやすく、循環動態も把握しやすくなっている。GDTの効果、影響を実際の麻酔管理で調査した。この結果、術中の輸液量、投与速度は明らかにばらつきが減少し、経験年数によらない循環管理が可能と考えられた。また、術後の集中治療室の入室期間は有意に短縮し総入院日数も減少する傾向が見られた。医療経済上も有用と考えられた。今後も有用な臨床ツールとして、また教育ツールとして実践していく。[2121.6.21]
東海大学での外傷治療の変遷
内山 善康(外科学系整形外科学)
[2021.6.7]
レーザー機器開発の歴史と今後の展望
河野 太郎(外科学系形成外科学)
1960年Maiman T.H.はレーザー発振に成功し、1961年にGoldman L.は皮膚の色素性疾患に治療を行った。1970年代までのレーザー治療は、瘢痕形成等の合併症の多くの問題を抱えていたが、1983年Anderson R.R.が選択的光熱分解理論を提唱し、選択的治療法が飛躍的進歩を遂げた。2004年Manstein D.らがレーザーリサーフェイシングの新しい概念であるfractional photothermolysis理論を報告し、低侵襲の照射法が開発された。東海大学では1980年からパルスレーザー、Qスイッチレーザーを開発してきた。近年ではQスイッチレーザーよりも更にパルス幅の短いピコ秒レーザーがトッピクスである。我々は、現在、10ピコ秒以下の超短パルスレーザーを開発中であり、応力緩和時間を考慮したさらなる次世代治療の機器の開発を目指している。 [2021.6.7]
口腔がん手術と手術部位感染
唐木田 一成(専門診療学系口腔外科学)
遊離皮弁再建術を伴う口腔がん手術は手術部位感染(Surgical Site Infection:以下SSI)が非常に多い。同じ準清潔手術である消化器がんの手術と比較してもSSIの発症率は高く、これまで臨床的に問題となってきた。SSIのリスクファクターを調べたところ、宿主要因(ASA-PS)、手術要因(手術時間)が最も有意な要因であることが分かった。また予防抗菌薬の適正使用もSSIの発症予防と耐性菌の出現を抑えることが分かった。さらに術後早期回復につながる多くのエビデンスを包括して行うために作られたERAS (Enhanced Recovery After Surgery)プロトコルを導入している。これは多職種が協力的に行わなければ成しえないことであり、我々は連携を強化しSSIを減らすことに努めている。また周術期に口腔ケアを行うことで術後の肺炎予防効果があることが分かっている。現時点ではエビデンスに乏しいがSSIの発症予防にも効果があると考えられる。我々は病院の歯科口腔外科として全診療科の対象となる症例に対し、周術期口腔機能管理を行なっている。[ 2021.6.21]
外科腫瘍学に基づいた歩み
小柳 和夫(外科学系消化器外科学)
講演においては、これまでの基礎研究や臨床研究とともに、現在の診療の取り組みを紹介した。まず、食道癌と細胞の不死化に関連するテロメラーゼ活性の関連に関する基礎研究で学位を取得したが、この研究を通して診療で疾患を考える際の奥行きが広がり、基礎研究の重要性を認識した。2度の米国留学では、リアルタイムPCR法を駆使して、血液中癌細胞やセンチネルリンパ節の微小転移の検出と臨床腫瘍学的因子との関連性を示した。臨床研究では、主に日本臨床腫瘍グループでの食道癌に対する集学的治療の研究を紹介した。診療に関しては、食道癌術後再建胃管におけるICG蛍光法を用いた血流評価の有用性を示した。そして、低侵襲外科手術である胸腔鏡下手術、さらにロボット支援下食道癌手術に対する当科の取り組みを紹介した。研究と診療は密接に関連しており、その癒合は極めて重要である。今後も、外科腫瘍学に基づいた歩を進めていきたい。[2021.7.28]
肝臓の孔を電子顕微鏡で覗いたら
高清水 眞二(総合診療学系健康管理学)
門脈圧亢進症を来す代表的疾患である肝硬変では、肝全体にびまん性に形成される再生結節とそれを取り囲む繊維性隔壁が特徴で、これらにより肝内の細静脈が圧排され、類洞後の門脈圧亢進症を引き起こす。肝類洞内皮細胞の特徴として、通常の毛細血管と異なり内皮細胞周囲の基底膜を欠き、類洞腔を覆っている内皮細胞内に径約100nmの多数の小孔(sinusoidal endothelial fenestrae;SEF)が存在する.このSEFの開閉運動は各種脈管作動性物質によりSEFはその径と数を変えることにより類洞循環の調節を行っている。急性のエタノール投与による門脈圧亢進時には、SEFは著明に縮小する。肝硬変ではSEFはほとんど消失し、内皮細胞周囲に基底膜が出現し、この現象は類洞の毛細血管化といわれている。肝微小循環調節機構においてendothelin(ET)は血管内皮細胞で産生され、強力な血管収縮作用を示す。ET receptor(ETR)としてETARとETBRの2種類が存在し、ETARにはET-1の結合性が高い。ETARは血管平滑筋細胞および肝では星細胞に局在し、その機能として血管収縮性に働き、星細胞がET-1の標的細胞と考えられている。我々は、選択的なETA、ETBレセプターANTAGONISTであるBQ-123,BQ-788を用いて検討を行ってきました。 ETAR拮抗剤であるBQ123投与群で門脈圧の低下とSEFの拡張が認められたことよりETRAを介してET-1により星細胞の収縮、拡張が行われ、SEFの開閉にも影響を与えている可能性が考えられました。最近ETA/BRの拮抗剤であるbosentan、TAK-44により肝硬変時の門脈圧が低下するという報告もみられ、今後新しい門脈圧降下剤の開発が期待されております。[2021.6.28]
産業医、ドック医、循環器内科医として東海大学に貢献できることとは?
馬場 彰泰(総合診療学系健康管理学)
伊勢原健康推進室(産業医)、健診センター(ドック医)、木曜日午後外来(循環器内科医)にて微力ながら東海大学に貢献できるよう精進してまいります。1999年9月より三足のわらじを履きましたが、民間企業やアカデミアでの産業医経験もいかし、学内の産業医・健康管理スタッフと連携をはかって参る所存です。循環器内科医としては、心臓免疫異常の基礎的臨床的研究を行い、抗体測定法の特許を取得するとともに、公的研究費取得のもと国内多施設治験後の先進医療B実施歴があります。本領域を発展させた先制医療として、心房細動発症を心電図異常が発現する前から予見しうる新規血液検査法を見出し、アフェレシスによる予防介入も検討してきました。将来的には「高度予防医療センター」の設立を目指し、関連2学会融合による日本医学会分科会への参画など、新しい保険医療制度に寄与できるよう な良医育成に尽力したいと存じます。 [2021.6.7]
「共存の医学」から患者安全まで
古屋 博行(基盤診療学系衛生学公衆衛生学)
私は1990年に東海大学医学部の学士入学制度の2回生として2年次に編入致しました。卒後は産業保健をきっかけに公衆衛生学の道へ進み教育・研究に従事して参りました。今でもA講堂で講義の際、佐々木 正五先生の「共存の医学」の言葉を拝聴し、現在おかれている新型コロナ感染症による人類への健康危機に対しても警鐘を示されていたのではと、改めて先生の物事の本質を見抜く力に感銘しています。近年、世界的な感染流行の懸念が増し、公衆衛生学における重要課題となっていることから、感染症に関連した臨床疫学研究や感染症数理モデルにも取組んでいます。気候変動を始めたとした地球環境の危機による健康影響も増大していることから、「共存の医学」を発展させSDGsを目指した研究に拡大出来ればと考えています。現在、医療監査部の患者安全業務も兼務しており、ノンテクニカルスキルの一層の普及やレジリエンス工学の応用により個人の対応力を高めることで、より安全な医療体制やシステム作りに貢献出来ればと思いますので、引き続き皆様のご支援、御協力をお願い致します。[2021.6.21]
本学におけるトランスレーショナルリサーチの推進に向けて
八幡 崇(基盤診療学系先端医療科学)
「科学とヒューマニズムの融和」を追求する本学において、基礎医学者に課せられた重要な役割は、基礎医学と臨床医学の橋渡しに尽力することにより、知の社会還元に努め、人類のQuality of Life (QOL)の向上に貢献することであると考えます。私はこれまで、免疫学、血液学、幹細胞生物学を土台とした新しい再生医療法の開発とがんの克服に取り組んできました。そして、再生医療にもがん治療にも有効な分子標的薬開発の理論的基盤を構築し、白血病を対象とした臨床試験の実施に結びつけました。これらの成果は、本邦初アカデミア発の創薬の成功例であり、基礎と臨床の融和によるトランスレーショナルリサーチのロールモデルとして、本学が標榜する「QOLの向上に資する東海大学」の一翼を担うものであると自負しています。本講演では、これまでの私たちの取り組みを紹介し、これからのトランスレーショナルリサーチの展開について紹介しました。[2021.6.7]
好酸球とその関連疾患
山田 佳之(総合診療学系小児科学)
臨床で好酸球が注目される場面は末梢血好酸球増多がほとんどである。しかし好酸球は末梢血よりもはるかに組織に多く存在する。実際には末梢血好酸球増多に加え好酸球によると思われる臓器障害が存在し、重症の場合にはすぐに精査・治療が行われる。重症例では慢性骨髄性白血病のように分子標的薬が効果を示すことがあり、キメラ遺伝子の検索が重要である。また好酸球はアレルギー性炎症の主たる炎症細胞であり気管支喘息などの治療標的となる。特に近年では好酸球性消化管疾患が増加しており、好酸球性食道炎については研究が進み、特徴的な内視鏡所見や治療法が知られている。また好酸球性胃腸炎はわが国で多く、乳児の消化管アレルギーを含め、広義の食物アレルギーに含まれることもある。さらに好酸球は全身性炎症の検査指標としての有用性もある。このように好酸球からの視点で病態にアプローチすることで精査につながり、治療戦略が見えてくることもある。[2021.6.28]