2019年度 新任教授記念講演会要旨
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《新任教授》教員所属表順
ゲノム編集:モデル動物作製から遺伝子治療まで
大塚 正人(基礎医学系分子生命科学)
遺伝子改変動物は、個体レベルでの遺伝子機能解析やヒト疾患の動物モデルとして医学生物学的研究に幅広く活用されています。私は遺伝子工学・ゲノム編集を専門とし、各種遺伝子改変技術を用いて、簡便に且つ良質の遺伝子改変動物を作製する手法の開発を進めてきました。これまでに複数の独自の技術開発に成功し、学内外の共同研究者が必要とするモデル動物作製にも活用していただいています。今後は、引き続きモデル動物の作製について洗練された新手法を世界に先駆けて開発・改良・応用するとともに、生命科学統合支援センターとも連携して独自の技術とリソースを学内の共同研究者に提供することで、東海大学の研究の底上げに貢献していけたらと考えています。また、今後間違いなく医療に応用されてくるだろうゲノム編集技術について、最新の知見を取り入れた授業を行い最先端の研究動向を学生に伝えるなどし、さらに自分自身も遺伝子治療への応用を視野に入れた研究を進めていく所存です。【2019.6.12】
難治疾患研究から、新しい科学、治療法の創出へ向けて
林 丈晴(基礎医学系生体構造機能学)
心筋症は突然死や心不全を引き起こす難治疾患である。家族内発症が多く、主な原因は心筋サルコメア(収縮タンパク)をコードする遺伝子変異であるが、半数例以上は説明できなかった。我々は、TcapやMLPなどZ帯に位置するタンパク群や、細胞膜に位置するカベオリン3をコードする遺伝子に変異を持つ心筋症の家系を見出し、遺伝子変異による機能変化を検討し、新規の心筋症原因遺伝子として報告してきた。これらは、現在米国では心筋症の遺伝子検査の項目として臨床利用されている。また、3次元電子顕微鏡を用いて、心筋興奮収縮連関を担う、T管、筋小胞体、ミトコンドリアの詳細な立体構造を明らかにし、高精細な心筋シュミレーションモデルを構築可能とした。さらに、最近は、心筋症多発家系の全エクソーム解析により得られた新規の原因遺伝子から、直接心筋症が治療可能となる結果が得られ、治療法創出に向けて研究を進めている。【2019.6.17】
乾燥細胞培養痘そうワクチンLC16m8の有効性、安全性評価に関する研究
金谷 泰宏(基盤診療学系臨床薬理学)
これまで様々な臨床研究に関わってきたが、この中で最大の取組である国産痘そうワクチンLC16m8の有効性、安全性評価について紹介した。2001年に発生した米国における炭疽テロを契機にわが国においても生物テロへの備えが急がれることとなった。この中で、米国疾病対策センターも懸念する天然痘(1980年代に世界保健機関(WHO)により根絶)への備えを進めることとされた。しかし、本ワクチンは、副反応を減らすことに成功したが、天然痘の感染に関わるウイルス外膜の抗原B5を欠いていた。この点が、本ワクチンを国家備蓄していく上で、有効性の面から懸念された。我々は防衛庁自衛隊(当時)の協力を得て、LC16m8の成人での有効性、安全性を評価するための研究に着手した。結果として、本ワクチンは初回接種者で高い善感率95%を示し、副反応として10%で腋窩リンパ節腫脹を認める以外、心臓、中枢神経への障害を認めなかった。これらの結果についてはJAMAに掲載されることなり、この論文が、WHOにおける世界標準ワクチンとしてLC16m8が推薦される道筋をつけたものと考えている。一方で、本ワクチンの既接種世代に対するB5のブースト効果等は、国際的にも興味が保たれる分野であり、研究の一端について紹介した。臨床研究の成果は、その大小に関わらず公表していくことが重要であるものと考えており、英文で出していくことで社会的な影響力も向上する。【2019.6.24】
上部消化管領域における診療の進歩
鈴木 秀和(内科学系消化器内科学)
上部消化管(食道・胃・十二指腸)疾患を考える時、まず、一番大きなウエートを占めてきたのが、酸分泌関連疾患である。古くは、消化性潰瘍診療が中心であったが、WarrenとMarshall(ノーベル生理学・医学賞受賞)がピロリ菌を発見して以降、感染症との認識が高まり、抗菌薬と酸分泌抑制による除菌療法で治癒させる疾患に変貌した。さらには、胃炎、胃がん、胃MALTリンパ腫などもピロリ菌感染に起因することがわかり、除菌療法が第一選択となったのである。一方で、近年の食生活の欧米化やピロリ菌感染率の低下、高齢者、肥満者の増加などから、胃食道逆流症の診療頻度は増加してきた。以上、上部消化管だけでも時代の変遷とともに、大きな診療のパラダイムシフトがなされてきたのである。神奈川県の湘南西部を中心に、東海大学4病院が診療を担当する医療圏では、今後、高齢化が急速に進み、全身疾患からの表現型を呈しやすい消化器の診療機会は確実に増加すると考えられ、常に、領域の知識と技術を前進させることが求められている。【2019.6.12】
術前リスクを考慮した最近の心臓血管外科手術
桑木 賢次(外科学系心臓血管外科学)
私は成人の心臓血管外科を専門として大学病院(札幌医科大学、順天堂大学)や関連病院で研鑽を重ねてまいりました。対象疾患は虚血性心疾患、弁膜症、大動脈疾患、これらの複合疾患などであり、なかには超高齢者や透析症例も多く含まれハイリスク症例や高難度の手術治療にも携わってきました。虚血性心疾患に対する冠動脈バイパス術では20年以上前から心拍動下冠動脈バイパス術(OPCAB)の技術習得に努力してきました。当初は患者リスクと冠動脈病変を勘案してOPCAB症例を選択してきましたが、現在では95%以上で安全にOPCAB施行可能となりました。また、近年急増している弁膜症に対しては、golden standardである弁置換術や弁形成術をより安全に行う技術習得や小切開手術に加えて、以前の施設では高齢者ハイリスク症例に対する低侵襲治療である経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)の導入にも尽力してきました。今後、東海大学医学部付属八王子病院においてさらなる安全、安心、良質な外科治療を実践し、地域医療に貢献する所存であります。東海医学会の先生方のご指導ご鞭撻をどうぞよろしくお願い申し上げます。【2019.6.24】
下部消化管外科の今後 ―伝えていきたい外科医としての臨床力―
山本 聖一郎(外科学系消化器外科学)
私は、大腸癌、大腸疾患の外科治療、腹腔鏡手術とともに進行・再発大腸癌、直腸癌骨盤内再発、高度進行悪性疾患の拡大手術、集学的治療、切除不能進行再発大腸癌の化学療法、腹部救急疾患の外科手術などを専門としてきました。
今後は(1)技術的、腫瘍学的安全性を確保しながら大腸癌、大腸良性疾患、炎症性腸疾患、急性腹症に対する腹腔鏡手術の適応拡大、(2)ステージIV症例、局所進行癌、骨盤内局所再発、高度進行腫瘍、高齢者などでの手術適応、診療体制の拡大、(3) 安全性、有効性を検証しながら国内外の最新の治療の導入をはかっていきたいと考えております。そのためには、消化器外科のみでなく、他科との連携を十分にとりながら診療を進めていくことが肝要であるのは申すまでもありません。引き出しの多い外科医を育成し、適切な外科療法を提供できる外科医の育成が最初の出発点です。まずはここを目指します。【2019.6.17】
「顔の見える小児医療」を目指した地域医療連携
渡辺 稔彦(外科学系小児外科学)
診療や研究でこれまで特に力を入れてきた活動を中心にお話し致しました。
【小児内視鏡外科】
日帰り内視鏡手術の導入や泌尿器や呼吸器疾患にも積極的に内視鏡手術を取り入れ、全手術数に占める内視鏡手術の割合は、従来の数%から18%(2018年)、30%(2019年)と飛躍的に上昇している。ベトナムハノイの小児外科グループとの技術・知識・人材の国際的な医療連携を大学の診療に集約して参ります。
【難病克服への挑戦】
根治術が確立されていないヒルシュスプルング病類縁疾患ではBishop-Koop式空腸結腸再建術を考案し、これまで3症例で中心静脈栄養から離脱させることに成功しました。さらに短腸症候群における重篤な肝機能障害に対しω3系脂肪乳剤による臨床研究を行い、多くの短腸症患児を救命してきた。本製剤の薬事承認に向けた活動を継続していきます。
【地域に密着した小児医療】
地域に密着した質の高い医療を実現できるよう「顔の見える小児医療」を目指した地域連携に着手しました。紹介先施設を訪問し症例検討会を行い、地域の先生方に大学の現場の生の情報をフィードバックすることで信頼関係を構築して円滑に情報を交換し、地域の小児医療全体の活性化を図って参ります。【2019.6.10】
【小児内視鏡外科】
日帰り内視鏡手術の導入や泌尿器や呼吸器疾患にも積極的に内視鏡手術を取り入れ、全手術数に占める内視鏡手術の割合は、従来の数%から18%(2018年)、30%(2019年)と飛躍的に上昇している。ベトナムハノイの小児外科グループとの技術・知識・人材の国際的な医療連携を大学の診療に集約して参ります。
【難病克服への挑戦】
根治術が確立されていないヒルシュスプルング病類縁疾患ではBishop-Koop式空腸結腸再建術を考案し、これまで3症例で中心静脈栄養から離脱させることに成功しました。さらに短腸症候群における重篤な肝機能障害に対しω3系脂肪乳剤による臨床研究を行い、多くの短腸症患児を救命してきた。本製剤の薬事承認に向けた活動を継続していきます。
【地域に密着した小児医療】
地域に密着した質の高い医療を実現できるよう「顔の見える小児医療」を目指した地域連携に着手しました。紹介先施設を訪問し症例検討会を行い、地域の先生方に大学の現場の生の情報をフィードバックすることで信頼関係を構築して円滑に情報を交換し、地域の小児医療全体の活性化を図って参ります。【2019.6.10】
私のこれまでの経歴と東海大学医学部麻酔科のこれからの展望
鈴木 武志(外科学系麻酔科学)
私は1998年に慶應義塾大学医学部を卒業、同年慶應義塾大学医学部麻酔学教室に入局しました。これまで臨床におきましては、手術麻酔、集中治療を中心に周術期管理や重症患者管理に関わり、集中治療センター副センター長ならびに医療安全管理部副部長を努めて参りました。研究面では敗血症予後改善に向けた基礎研究や低侵襲循環動態モニターに関する臨床研究に従事し、教育面では卒前教育に力を注いで参りました。東海大学医学部付属病院の麻酔科管理手術件数は年間7200件ほどであり、手術内容も高度化かつ多様化しております。このような背景のなか、麻酔科医には手術麻酔管理のみならず集中治療室における周術期管理や重症患者管理、疼痛診療や緩和医療に渡るまで幅広い領域で活躍することが求められています。魅力的な専門研修プログラムの導入によって麻酔科医を増やし、コミュニケーション能力とリーダーシップを発揮できる麻酔科医の育成に努め、東海大学医学部付属病院のさらなる発展に向けて貢献していく所存です。【2019.6.17】
救急医療の歴史と、この20年のパラダイムシフト
守田 誠司(外科学系救命救急医学)
救急医療の歴史は救急医療のシステム構築の歴史である。救急医療は特に他科と違う医療を提供するものではなく、緊急時の医療を24時間365日平等に提供することが目標である。救急医療の歴史は戦争時に負傷した兵士をいかに救助し治療を開始するのかということから始まっている。したがって、救急医療のシステムは国の歴史的背景や社会的背景により様々である。アメリカでは南北戦争時代に馬車を使用した救急車が誕生し、自動車を使用した救急車は24時間営業をしていた葬儀社が黒い霊柩車を赤く塗り替えて営業を開始している。日本では概ね戦後より法的な整備が進み、昭和50年代から現在の救急医療に近いシステム構築が開始されている。救急医療の患者背景は時代に左右され、日々変化している。自分が救急医療を始めた20年前と現在でも大きく変化している。まずは高齢化であるが高齢化率は倍となり搬送患者の高齢化が著明となっている。今後も多くの変化が考えられ、この変化に対応できる盤石な救急医療体制を維持・構築していきたい。【2019.6.12】
新生児医療の特徴
内山 温(専門診療学系小児科学)
わが国の新生児死亡率は1,000出生あたり0.9と先進国の中で最も低い水準を保っている。現在、日本の新生児医療に関わる医療者は、後遺症なき生存退院を目標として診療に従事している。新生児疾患には、母体疾患の影響を受けて発症する疾患、出生前診断可能な疾患、出生体重1,000g未満の超低出生体重児など様々な疾患が存在する。これらのハイリスク新生児が家族に温かく迎えられ退院していくためには、それぞれの疾患に対する適切な治療だけではなく、入院中から母子関係の確立に努める必要がある。これらのハイリスク新生児の診療や退院へ向けての家族支援について、医師個人や一診療科で対応出来ることは限られている。したがって、周産期・新生児医療に関わる全てのメディカルスタッフ間の密接な連携と情報共有が重要であることが新生児医療の特徴であると同時に、これらの実践がより良い新生児医療に繋がると考えられる。【2019.6.10】
東海大学八王子病院の皮膚科外来診療
松山 孝(専門診療学系皮膚科学)
【2019.6.17】
これまでの10年とこれからの100年 -教員として、耳鼻科医としてー
濵田 昌史(専門診療学系耳鼻咽喉科学)
【2019.6.24】
小児放射線:より詳細な評価にむけて
丹羽 徹(専門診療学系画像診断学)
放射線診断の領域は、CT・MRI・核医学・血管造影などのモダリティ、神経放射線・胸部放射線・腹部放射線・骨軟部放射線などの解剖学的な領域によるサブスペシャリティーがあります。その中で”小児放射線“も一つのサブスペシャリティーとなっています。小児の画像診断では対象となる小児の発達により正常像が刻々と変わる、対象とする疾患の幅が広い、小児の画像検査に困難が伴うことなど、放射線科にとっては取り組みにくい領域ともいえます。私は、小児病院での経験を通して、成長によりダイナミックにかわる小児の正常像の把握に努めることの重要性を認識し、CT、MRIで詳細な発達変化の理解に努めてまいりました。このような過程で、各発達段階での異常が検出可能となることを知りました。さらに微細構造の描出や、撮像法、画像処理法など画像検査、画像診断の改善に取り組んできました。本講ではこれらに関して、お話させていただきました。【2019.6.10】
小放射線治療の進歩
菅原 章友(専門診療学系放射線治療科学)
私は1997年に医学部を卒業し、放射線治療科学の道を選びました。その頃の放射線治療はまだ黎明期であり、癌治療の主役とはいえませんでした。放射線治療で根治する癌は少なく、緩和が主体でした。一方、放射線治療による有害事象も深刻な問題でした。しかし、その後、放射線治療は目覚ましく進歩しました。コンピュータの発達により3次元照射法が開発されました。続いて、定位放射線治療や強度変調放射線治療など高精度放射線治療が開発され、普及しました。腫瘍に精密に高線量の放射線を照射し、かつ、周囲正常組織の線量を低減することが可能となりました。これにより、腫瘍制御率の向上と有害事象の低減が得られました。その結果、放射線治療の適応拡大、放射線治療患者数の増加となりました。放射線治療が標準的治療のひとつとして確立された癌腫も増えました。今後、当院放射線治療科は最新かつ高いレベルの放射線治療を提供し、地域医療に貢献してまいります。【2019.6.12】