2018年度 新任教授記念講演会要旨
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《新任教授》教員所属表順
HLA多型の謎に迫る~遺伝子・ゲノム研究からの展開~
椎名 隆(基礎医学系分子生命科学)
ヒトゲノムで最も多型性に富むHLA遺伝子群のDNAタイピング法は、移植医療や疾患ゲノム解析に不可欠な検査技術であり、これまでに種々のDNAタイピング法(従来法)が開発され実用化されてきた。ところが、いずれの方法もアレル判定の困難な場合があることから、その問題を解決する新規のDNAタイピング法の開発が望まれていた。このような背景から我々は、世界に先駆けて次世代シークエンサーを活用したHLAタイピング法(SS-SBT法)を開発した。この方法は、HLA遺伝子全領域の多型や変異を効率よく、且つ正確に検出できることから、本法の活用は従来法の限界にブレークスルーをもたらし、特定エキソンのHLA多型に基づいて進められてきた移植研究や疾患解析に新たな知見を与えると期待される。本講演では、SS-SBT法の特徴、基礎技術開発から製品化、さらにはHLA多型生成の謎に迫るための現在の取り組みと今後の展望について紹介した。【2018.6.25】
東海大学医学部・医学部付属病院における医療倫理学領域の展望
竹下 啓(基盤診療学系医療倫理学)
2018年4月1日に新たに医療倫理学領域が設置されました。私たちは長期的なミッションとして、1)医療・ケアにおける倫理的問題を同定・整理し、よりよい解決策を提示すること、2)医療・ケアの実践における倫理的な問題を検討するモデルを形成し、全国に普及させること、3)そのための人材を育成することを掲げています。まず着手すべき課題としては、医学部付属病院において臨床倫理コンサルテーションなどの臨床倫理支援体制を構築するとともに、地域の医療・ケアに対する倫理支援を行うシステムを形成することに力を注いでまいります。また、医療倫理学領域が担当している医学部付属病院の遺伝子診療科では、当院ががんゲノム医療連携病院として必要な役割を果たせるよう、スタッフ一同がチーム医療の一員として取り組みます。臨床医が主宰する医療倫理学領域であることを強みとして、ベッドサイドの観点に立って医療倫理学の教育、研究、実践に精進いたしますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。【2018.7.2】
総合診療とNarrative Based Medicine
小澤 秀樹(内科学系総合内科学)
Narrative based medicine(NBM)とはGreenhalghらが1998年に提唱した理論で、患者が主観的に体験する物語を全面的に尊重し、医療者と患者との対話を通じて、新しい物語を共同構成していくことを重視する医療のことである。NBMの特徴は従来の医療の常識とは異なり、病気を生物学的な異常だけとはとらえず、患者の病に対する対処行動として考え、患者こそが病の物語の主人公と考える。そして多様性の容認や線形因果論を重要視せず、対話を治療の一部とみなすことである。Evidenced based medicine (EBM)の基本姿勢は、正しい科学的な治療法があって、それを正確な診断をふまえて患者に応用し当てはめることである。それに対しNBMの姿勢は、患者の語りを聴き必要あれば家族の意見を聞き、医療者も考えたうえで複数のものをすり合わせながら合意を目指すことである。EBMとNBMは全く相反するようにも見えるが、実際はそうではなくEBMのStep4の「得られた情報の患者への適応を考える」はまさしくNBMそのものである。NBMには定式化したプロセスはないが、あえて5つのStepにまとめると、1)患者の物語の傾聴 2)患者の物語の共有 3)医療者の物語の進展 4)物語のすり合わせと新たな物語の浮上 5)ここまでのプロセスの物語的評価となる。この5つのStepを円滑に進めるには、Disease – illnessモデル、患者中心の医療、コンテクスト(状況的要因)、家族志向性アプローチ、BPS(生物心理社会)モデルなどの概念を医療の上で実践できる必要がある。またこれらの概念は総合診療医にとって、最も重要なコンピテンシーである。私達、総合内科医(総合診療医)にとってEBMは医療の基本ではあるが、NBMも同様に重要であり、診療の姿勢としてEBMとNBMを実践してく必要がある。【2018.6.18】
くも膜下出血(脳動脈瘤)の治療
小田 真理(外科学系脳神経外科学)
【2018.6.25】
低侵襲脊椎外科の展望
張 漢秀(外科学系脳神経外科学)
【2018.7.2】
ヒルシュスプルング病とその類縁疾患から小児便秘症まで
平川 均(外科学系小児外科学)
ヒルシュスプルング病(HD)は、先天的に腸管の神経節細胞が欠如するため便秘などの症状を呈する病気であるのに対し、HD類縁疾患は、神経節細胞が存在するにもかかわらず,HDと似た病状をきたす疾患群をいい、神経節細胞に異常を認めるもの(壁内神経節細胞未熟症・腸管神経節細胞僅少症・腸管神経形成異常症)と認めないもの(巨大膀胱短小結腸腸管蠕動不全症・腸管分節状拡張症・内肛門括約筋無弛緩症; IASA・慢性特発性偽性腸閉塞)に分けることができる。中でもIASAは、難治性便秘と直腸肛門反射消失から診断されるが、私は原因として、NADPH-Diaphorase染色を用いて内肛門括約筋内のNO合成酵素による神経支配の欠如であるとアイルランド留学の研究成果として発表した。一方、小児便秘症についてその治療は、排便習慣の確立(便秘の悪循環を断つ)・食事療法(食物繊維摂取)・薬物療法の組み合わせで、整腸剤と酸化マグネシウムを基本に漢方薬の大建中湯を追加することでより効果が上がる。【2018.6.18】
私が乳腺外科医になった理由(わけ)
鈴木 育宏(外科学系乳腺・内分泌外科学)
新任教授記念講演会という貴重な機会を頂き、「私が乳腺外科医になった理由(わけ)」という題名でお話致しました。当初、救命救急医を目指し大阪大学特殊救急部の門を叩きましたが、当時の東海大学救急医学教室の澤田教授に「何かスペシャリストになってからおいでよ」と言われ、三富利夫教授のもと一般消化器外科の修練を積みながら、ある2人の患者さんの出会いから、乳腺外科医としてスタートを切りました。2007年9月の外来では最後の患者さんの診察を終えたのが0時前で、当時の患者さん、スタッフには多くのご迷惑をおかけしました。この場をお借りしてお詫び申し上げます。ただ、この外来の中で、私は成長させて頂き、どの患者さんにも差別無く、目の前の患者さんの診療に全力を尽くす、といったスタイルが私の基本姿勢です。今では、伊勢原、八王子含めて12人の体制となりました。ブラックペアンの佐伯教授も「最後は人だよ」と仰っていました。今後もひとりでも多くの乳がん患者さんを救い、人を育て精進します。引き続き、皆様からの貴重なご意見を頂ければ幸いです。よろしくお願い申し上げます。【2018.6.18】
これからの乳癌診療はどう変わるのか?
新倉 直樹(外科学系乳腺・内分泌外科学)
私は過去の業績としてMD アンダーソン キャンサーセンターで骨転移の診断、評価、臨床的特徴をまとめ発表、原発腫瘍だけでなく再発腫瘍の組織を用いて個別化医療を進める重要性を示してきた。帰国後は脳転移の研究を臨床的、基礎的な研究を行い発表した。また乳癌学会登録委員としてNCD-乳癌登録の利用を推進し、多くの研究に協力してきた。今後の方向性としては再発腫瘍の生検を行う上で患者への侵襲があり、血液から個別化医療を進めるCirculating tumor DNAに注目し、現在他施設研究グループで研究代表者として研究を主導している。さらに乳癌領域では癌の組織に起こる2次的な遺伝子変異でなく生殖細胞系列の遺伝子変異であるBRCA変異保因者に対する個別化医療も始まっている。これにかかわり患者だけでなく家族への情報提供、検診、予防的切除なども今後対応が必要である。今後は教室を繁栄させ東海大学から世界に発信するエビデンスを構築していきたい。【2018.7.2】
東海大救急 これまでとこれから
中川 儀英(外科学系救命救急医学)
【2018.6.25】
食物アレルギーにおける免疫療法
山口 公一(専門診療学系小児科学)
アレルゲン免疫療法はアレルギー疾患の自然歴を改善する可能性のある唯一の治療法とされており、食物アレルギーにおいても経口法だけでなく、皮下法や舌下法が古くから行われていた。特に経口免疫療法はここ10年で著しく普及しているが、手法は様々であり、有害事象の報告も多く、耐性獲得状態の問題も未解決のため一般診療としては未だに推奨されていないのが現実である。最近では経皮免疫療法が食物アレルギーにおいても報告がみられるようになり、特に安全性における優位性が指摘されており、ピーナッツアレルギーなどにおける有用性が報告され臨床応用が期待されている。しかし、有効性や長期的にみた安全性、貼付用量や貼付部位、貼付装置、貼付期間を含めた貼付方法、対象の選択などまだ課題は多い。いずれにせよアレルゲン免疫療法には可能性とともに常に限界があり、実施に際しては安全性を最優先にして慎重に検討する必要がある。【2018.7.2】
母校で教授として働く意味 ~乾癬の研究を通して学んだこと~
馬渕 智生(専門診療学系皮膚科学)
乾癬は炎症性角化症に分類される皮膚疾患である。不可逆性の関節変形に至る関節症状、心血管系イベント、脂質異常などを合併することがあり、生命予後にも影響を及ぼす全身性炎症性疾患とも捉えられている。遺伝因子に環境因子が加わって発症する多因子性疾患であり、その病因はいまだ解明されていない。本学医学部を卒業後、皮膚科開業医である父の姿を見て皮膚科医を目指した私に、教員としての道を示してくださったのは先代教授の小澤明先生であった。初代教授・大城戸宗男先生の時代からの伝統的研究テーマである乾癬の分野で業績を積み、乾癬という専門性が確立されたことで、それまで感じていた国公立大学や旧設私立大学への引け目が払拭され、同時に母校への愛校心が芽生えてきた。学生、研修医がもつ無限の可能性を自覚させ、専門性の確立を補佐し、大きな世界への足がかりを作ってあげることが私の使命の1つだと思っている。【2018.6.18】
緑内障と眼循環
木村 至(専門診療学系眼科学)
【2018.6.25】