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2018年度 例会及び講演会発表要旨
●2018.4.9|Program Cell Death 1(PD-1)の発見とその後
石田靖雅 先生
奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科機能ゲノム医学研究室
(兼任・動物遺伝子機能 研究室)独立准教授
司会:伊苅裕二(内科学系循環器内科学)

石田靖雅博士は、Programed Cell Death-1(PD-1)の第一発見者である。彼は、T細胞による「自己−非自己」識別機構の本質に迫りたいと考え、学生時代に夢見たサブトラクション実験を京大の本庶研究室にて実行し、たった1つのPD-1遺伝子にたどり着いた。そのPD-1は、当初彼が狙っていた細胞死関連分子ではなかったが、PD-1の機能を抗体で弱めてやると一部のがんが治ることが発見され、T細胞が「自己」と「非自己」を識別する際に、PD-1が重要な役割を果たすことが明らかになってきた。現在、さまざまな研究及び治療に劇的な発展を遂げているPD-1の領域である。今回は石田博士の基調講演とともに、PD-1研究を行っている有志の研究者とPD-1について有意義なディスカッションができる会としたい。プレゼン希望者は、伊苅教授室まで連絡ください。
●2018.4.10|脳卒中とリスク因子:ゲノム情報を含めた疫学解析
Dr. Jemma Hopewell
University of Oxford, Associate Professor, Genetic Epidemiology and Clinical Trials, Senior Scientist
司会:後藤信哉(内科学系循環器内科学)

Jemma Hopewell博士はオクスフォード大学のGenetic Epidemiology and Clinical Trialsの准教授です。英国ではパーソナルゲノム情報と臨床情報を5万例以上集積したUK biobankがあります。米国のFramingham研究は心筋梗塞、脳梗塞の発症における古典的リスク因子の重要性を示しました。UK Biobankでは古典的にリスクに加えて個人のゲノム情報まで含めて臨床イベントに寄与する因子が探索されています。臨床医は家族歴を重視します。しかし、これまでの心筋梗塞、脳梗塞発症モデルには家族歴に相応する因子は含まれていませんでした。イベントに寄与するパーソナルゲノム情報が解明されると、数万例以上の症例を集めてもリスク因子を均質化できないことがわかるかも知れません。ランダム化比較試験により臨床的仮説検証という現在のEBMのルールを無価値にする可能性もあるゲノム情報を含めた疾病発症モデルに学ぶところ大と考えます。是非、ご参加下さい。
●2018.5.11|NGSによるHLA分子片アレル欠失を示す病態メカニズムの解明
細道一善 先生
金沢大学 医薬保健研究域医学系革新ゲノム情報学分野 准教授
司会:木村穣(基礎医学系分子生命科学)

近年、次世代シーケンサー(NGS)などのゲノム解析技術の著しい進歩により、ゲノムや生体分子情報を迅速かつ精密に知ることができるようになった。この技術は医科学研究においても個人ゲノム決定による遺伝性疾患原因遺伝子の同定に成果を挙げ、DNA、RNAおよびエピゲノムなどの生体分子情報を含めた膨大なデータの統合解析は疾患発症過程を分子レベルで理解することを可能にしつつある。臨床分野においても患者のゲノム情報に基づく診断と治療への応用、予防を目指す先制医療などの個人の遺伝情報をもとにした医療、いわゆるPrecision Medicineの実現が提唱されてきた。HLA(Human Leukocyte Antigen、ヒト白血球抗原)遺伝子は数多くの疾患や薬物副作用との関連からPrecision Medicine実現の重要な遺伝情報の一つであるが、近年では特定のHLAアレルや異型接合性が免疫チェックポイント阻害薬の治療効果やがん患者の予後に関係することも報告され、HLAはがん対策からも再注目されている。がん細胞においてはHLA分子を発現しない現象が知られており、その場合はがん特異的ネオ抗原が存在するにも関わらず細胞表面には提示されず、細胞傷害性T細胞などの免疫系から逃れることでがん細胞が増殖し、進行が早まる可能性が考えられている。HLA分子の欠失を引き起こすメカニズムはがんをはじめとした病態の理解につながるだけではなく、バイオマーカーとしての応用も期待できる。本セミナーではゲノムやエピゲノムの体細胞変化に起因すると考えられるHLA分子の欠失のメカニズムにフォーカスし、再生不良性貧血患者に一定の頻度で認められるHLA遺伝子の片アレルが欠失した白血球を対象に、NGSを駆使した解析から見えてきた知見について紹介したい。(細道先生記)NGSは単にゲノム解析能力高度化への貢献だけでなく、医学生物学的に新たな知見を見出す原動力ともなっています。多数のご来聴を期待します。(木村記)
●2018.5.16|アクティブラーニングTeam-based learning(TBL)の実践
大久保由美子 先生
東京女子医科大学 医学部医学科医学教育学 教授
司会:和泉俊一郎(専門診療学系産婦人科学)

Team-based learning(TBL)は学生参加型の講義法で、クラス全体を数名程度のチームに分け、学生は個人単位およびチーム単位で学修課題に取り組む。反復した知識習得と知識応用のプロセスは、実践的な能力を獲得することにつながる。学生は予め学修項目を明示され予習として自己学修を行う。大教室で行うTBLのセッションでは個人テスト(IRAT)、チーム内討論、IRATと同じ問題に回答するチームテスト(GRAT)、チーム間討論、教員によるフィードバックが行われる。学生は提示される問題を、個人、チーム内、チーム間で解決し、領域の専門家による解説により理解を深めていく。 臨床推論能力教育のためには実際の診療に模し、患者の訴えをもとに医師が必要な情報を集め問題解決していく過程を、患者を診察する順番で経験させる。病態を考えるための形態・機能の知識の確認と定着、診断を行うために必要な医療情報、検査法を考えさせ、優先順位を常に考えさせる。個人的背景からの治療法選択、患者・家族の心理、医療倫理、医療資源、医療経済なども課題に含めていく。
●2018.5.25|ピルビン酸キナーゼ1型(Pkm1)はPkm2よりもがんの増殖を促進する:Pkm2によるワールブルグ効果が発がんに必須だという定説への反証
渡邊利雄 先生
奈良女子大学研究院 自然科学系生物科学領域 教授
司会:木村穣(基礎医学系分子生命科学)

がんにはグルコースが好気的に代謝されにくいというWarburg効果があるが、Warburg効果の意義については発見から50年以上たつがよくわかっていない。演者らは,Warburg効果の鍵をにぎる解糖系の酵素ピルビン酸キナーゼMの新たな遺伝子改変マウス(アイソフォーム特異的発現ノックインマウス)を作出することなどにより、Warburg効果には細胞の生存あるいは増殖に対しむしろ不利にはたらく面のあることを明らかにした。ピルビン酸キナーゼMには選択的スプライシングにより産生される2つのアイソフォームPkm1およびPkm2が存在する。これまでの研究では、Pkm2の選択的な発現がWarburg効果の成立には必須とされており(Nature 2008)、事実ほとんどのがん細胞はPkm1ではなくPkm2を圧倒的に高く発現することが知られている。ところが、アイソフォーム特異的発現ノックインマウスにおける発がん実験や移植モデルにおける我々の解析では、Pkm1はPkm2よりもがんの増殖を促進することがわかった。Pkm1はPkm2と比べ代謝活性が高いためにグルコース代謝の全般を亢進させる。小細胞肺がんを典型とする肺神経内分泌腫瘍においてはPkm1の発現が高く、解析からこのPkm1の発現は小細胞肺がんの増殖に必須であった。これら一連の結果は、「Pkm2によるグルコース代謝の制限が発がんに必須であるという定説」に対する強い反証となるとともに、肺神経内分泌腫瘍のような一部のがんにおいては、Pkm1やその関連する形質が新たな治療の標的になる可能性が示されたと考えている。本セミナーでは、上の公表したピルビン酸キナーゼの発がんにおける機構の紹介に加えて、解析を始めたばかりであるが、最近思いがけず見出したミトコンドリアに局在する新規のユビキチンリガーゼMul1の欠損が、高脂肪食による体重増加への耐性を付与することも紹介させていただく。Mul1はパーキンソン病の原因遺伝子のParkinと相補的な機能をなしていることが、ショウジョウバエや受精後のオス由来のミトコンドリア分解の解析などから推定されている。Parkin単独欠損、あるいはパーキンソン病に関連する遺伝子PIKNやDJ1との二重欠損でもマウスではパーキンソン病のモデルとならないことから、Mul1が現在不明の役者である可能性に関しても検討中である。(渡邊先生記)忌憚のないコメントを期待しておられます。ぜひ多くの方のご参加をお待ちします。(木村記)
●2018.5.30|個人情報保護法改正と医学系研究 ~法学の立場から~
神坂亮一 先生
明治大学 法学部ELM客員研究員/川村学園女子大学 兼任講師
司会:木村穣(基礎医学系分子生命科学)

周知の通り、2015年以降の個人情報を取り巻く状況が大きく変化した。すなわち、「個人情報の保護に関する法律」(以下、改正個情法)、「独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律」、「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律」といった個人情報を取り扱う事業主体に規制の網をかける法律の改正である。これらの改正に合わせる形で、2016年には、医学研究に関する倫理指針(特に、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」(以下、人指針)及び「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」(以下、ゲノム指針))の改定作業が「医学研究等における個人情報の取扱い等に関する合同会議」(以下、合同会議)を中心に進み、2017年に改定指針が成立した。そもそも、個情法改正の背景には、①国の成長戦略の一環として個人情報の利活用を促進すること、②いわゆる名簿屋対策に見られる個人情報の保護を強化すること、③欧州の個人情報保護指令が域外の諸国に求める保護水準等の要件に合わせること、④個人情報保護委員会に規制権限を一元化すること、の4点がある。特に、②に見られるように個人情報の保護を強化するために、「要配慮個人情報」が新たに条文に盛り込まれたために、病歴等の個人情報は従来の倫理指針と異なって本人の同意を必要とすることになった。そのために、医学研究を行う上で、これらの情報を取得することが困難になってしまったので、日本医学会の要望が合同会議に提出されることになった。医学者側の憂慮の声としてかかる要望が提出されたことによって、倫理指針における個人情報の取り扱いの要件が緩和されることになったのである。本講演では、個情法改正の経緯(できる限り、次世代医療基盤法との関係性も含めて)及び上述の3つの個人情報保護法の個人情報に関する規定の異同を説明し(改正個情法における個人情報の保護、学術研究適用除外規定)、個情法改正に伴って、人指針及びゲノム指針では、個人情報に関する規定が従来の指針との関係でどのように変化したのか、法学の立場から検討していきたいと考える。加えて、患者の個人情報をConfidentialityの観点から捉え直し、これらの情報をいかなる要件の下で利活用が可能であるのか(特に、守秘義務の解除)、といった議論も可能な限り紹介したいと考えている。
●2018.6.8|メタボリックDNA損傷を抑制する新規メカニズムの可能性について
酒井恒 先生
神戸大学 バイオシグナル総合研究センターゲノム機能制御研究分野 助教
司会:谷口俊恭(基礎医学系分子生命科学)

遺伝情報の担い手であるDNAは、様々な要因によって絶えず損傷を受けている。紫外線や化学物質などの外的要因であれば、それらの影響を未然に防ぐことは比較的容易である。しかし、その要因が生体内で生じる場合、それらを忌避することは極めて困難である。脂質は重要な栄養素であると同時に生体の構成因子として必須であるが、代謝反応等により種々のアルデヒドに変換される。それらはDNAやタンパク質に対して高い反応性を示すが、その無害化に関わる分子機構については不明な点が多い。私達は、ファンコニ貧血の責任遺伝子産物の1つであるFANCD2の相互作用因子として、脂質アルデヒドの分解に関与する因子を単離し、その解析を行っている。本講演では、生体内の代謝反応の結果として生じるDNA損傷を「メタボリックDNA損傷」と定義し、これらを抑制または無害化する新規メカニズムの可能性について議論したい。
●2018.7.12|災害医療概論と災害派遣精神医療チーム(DPAT)の体制
河嶌譲 先生
国立病院機構災害医療センター臨床研究部 厚生労働省DMAT事務局員DPAT事務局 アドバイザー
司会:山本賢司(専門診療学系精神科学)

阪神淡路大震災を契機として平成17年に日本DMATが創設されてから多くの実働が行われ、その度多くの課題も見つかり、DMATはさらなる発展を遂げて来た。平成23年東日本大震災では未曾有の災害となり、保健医療支援全体、そして精神保健医療においても超急性期から支援が十分に行き届かない部分も見られ、DMAT、精神保健医療関係者の中で多くの課題が挙げられた。その結果、災害医療コーディネーター制度の拡充、亜急性期へのシームレスな支援移行体制整備やロジスティクスチームの整備などの検討が進み、平成25年にはDPATが創設された。今回は、DPAT設立の経緯、平成28年熊本地震における支援活動の課題を踏まえた現在のDPATおよび災害時における精神保健医療体制について、災害医療の基本原則に沿って述べたい。
●2018.7.20|定型外翻訳のマウスモデル解析とヒト疾患応用への展望
牧野茂 先生
公益財団法人がん研究会がん研究所 特任研究員
司会:木村穣(基礎医学系分子生命科学)

近年のゲノム編集技術の発達により、遺伝子改変動物を簡便かつ効率的に作製することが可能となってきました。我々は、ゲノム編集により、ノックアウトしたはずのフレームシフト変異アレルから標的遺伝子産物が発現する「定型外翻訳」を見出しました。定型外翻訳は、複数のヒト疾患でも報告されています。本セミナーでは、定型外翻訳モデルマウスの解析に加え、ヒト疾患解析への応用についても議論したいと思います。我々は、培養細胞株およびマウス個体において、CRISPR-Cas9により、形態形成や発がんに重要な役割を果たすヘッジホッグシグナルの最下流で抑制型の転写因子として機能するGli3遺伝子ノックアウトを試み、複数のフレームシフト変異Gli3アレルを樹立することに成功しました。しかし、それらの変異アレルでは、想定に反して、本来の開始コドンより下流のin frameのATGから翻訳が開始し(定型外翻訳)、ほぼ全長のGLI3タンパク質が合成されることを明らかにしました(Makino et al. 2016)。ホモ接合体変異マウス個体は、調べる限り大きな形態異常を示さないのに対し、完全なGli3欠失マウスは、神経管閉鎖障害や肺の形態異常などを示し、胚性致死であることがすでに知られています。定型外翻訳によるGLI3タンパク質は、活性を保持し、ノックアウトマウスの表現型をレスキューすることが明らかになりました。以上の結果により、ゲノム編集によりノックアウトを行う際、DNA配列だけでなく、標的タンパク質の発現を慎重に解析する必要があることを示しました。さらに、複数のヒト疾患において、定型外翻訳産物が表現型をレスキューしたり、逆に、増悪する例があることが明らかにされています。今後は、Gli3だけでなくヒト疾患関連遺伝子での定型外翻訳も解析し、翻訳開始機構の解明と疾患の分子メカニズムの解明を目指します。多数のご来聴をお待ちしております。
●2018.7.23|エクソソームによる疾患の理解と診断・治療戦略
落谷孝広 先生
東京医科大学 医学総合研究所 教授/国立がん研究センター プロジェクトリーダー
司会:稲垣豊(基盤診療学系再生医療科学)

エクソソームは全ての細胞が分泌する細胞外小胞であり、近年、世界中がこの研究に注目している。エルゼビア出版の調査では、昨年1年で最も世界で多く出版された論文の分野に、エクソソームが挙げられているほどだ。さらに、エクソソーム研究は基礎研究のみならず、産業化への期待が高く、世界中の企業や政府が莫大な費用を投じて研究を推進し始めた。この状況に日本が遅れることなく、エクソソームを中心とした新しい科学領域を創生するとともに、医療にも貢献できるようなプラットホームを構築する必要がある。本講演では、エクソソーム研究がもたらす革命的な診断・治療の可能性を概説するとともに、新しい再生医療の展開に向けた話題も提供したい。
●2018.8.13|Emerging and Re-emerging Tick Borne Infections
Christopher A. Ohl, MD
Professor of Medicine, Section on Infectious Diseases, Wake Forest University School of Medicine
司会:柳秀高(内科学系総合内科学)

ダニ媒介リケッチア症は米国ではロッキー山紅斑熱、エーリッキア、アナプラズマ、などが有名であるが、日本ではツツガムシ病、日本紅斑熱が臨床上重要な感染症である。抗菌薬による治療方法は確立しているが、依然として生来健康な若い人や小児が重症感染症に罹患したり、亡くなったりする疾患である。これは抗菌薬療法が最も有効な初期の段階での早期診断が困難なこともその一因となっている。Dr.OhlはWake Forest University School of Medicineの感染症内科教授であり、以前より当科でのラウンド、レクチャーを多数お引き受け頂いたことがあるが、CDCのMMWRに掲載されたダニ媒介疾患総説の著者であり、リケッチア症について極めて造形の深い医師である。この講演によって明日からの診療の質を向上させ得ると考える。
●2018.8.14|Education Strategy to Enhance Antimicrobial Stewardship
Vera Parkhurst Luther MD
Associate Professor of Medicine, Section on Infectious Diseases, Wake Forest University School of Medicine
司会:柳秀高(内科学系総合内科学)

1940年前後にペニシリンが臨床医学の現場で利用可能となって以来、様々な抗菌薬の使用量が年々増加している。それに伴って耐性菌も増加し、近年では現存する抗菌薬全てに耐性を示す菌も出現している。このためWHOやCDC、我が国の厚生労働省などが一貫して抗菌薬の適正使用を提唱している。Dr. LutherはWake Forest大学感染症科准教授であり、学内の抗菌薬適正使用教材の作成や研修医、医学生の教育に長年携わり、また米国感染症学会機関誌であるClinical Infectious Diseaseにもこれに関する論文を発表するなど、この分野の研究者として注目されている。本学においても、この講義により抗菌薬適正使用についての理解を深め、患者の予後向上に役立てたいと考えている。
●2018.9.7|腸管IgA抗体による腸内細菌制御機構の解明と応用
新藏礼子 先生
東京大学 定量生命科学研究所免疫・感染制御研究分野 教授
司会:木村穣(基礎医学系分子生命科学)

近年、腸内細菌叢の異常(dysbiosis)が炎症性腸疾患だけではなく多くの疾患の発症に関連すると報告されており、腸内細菌叢を改善することは健康維持に重要である。腸内細菌叢は数百種の常在細菌で構成されており、食物や抗生物質などの影響を受けて変化する。宿主側は腸管に分泌されるIgA抗体によって腸内細菌を認識し制御していることがわかってきた。しかし、各IgA抗体が常在腸内細菌の何を認識して腸内細菌叢にどのような変化を与えるのか、などその詳細は明らかではない。私たちはマウス小腸由来IgA産生細胞からモノクローナルIgA抗体をクローニングし、各IgAクローンが認識する細菌由来分子を探索した。まず、単離したIgA抗体の中で、多くの種類の細菌に最も強く結合する能力を持つW27抗体に着目した。W27抗体が強く結合するのは大腸菌など悪玉菌の仲間であり、乳酸菌やビフィズス菌といったいわゆる善玉菌に対しての結合は弱かった。27抗体は多くの細菌が持つ代謝酵素(Serine hydroxymethyltrasnferase)中の4アミノ酸の違いを識別しており、この特定のアミノ酸配列を認識して結合することで大腸菌と乳酸菌を識別し、さらに共培養により大腸菌の増殖を抑制した。一方でW27抗体は良い菌の増殖を妨げないので、マウスへW27抗体経口投与を行ったところ、全体として良い菌が優位になる方向に腸内細菌叢が変化する効果が見られた。W27抗体を腸炎モデルマウスに経口投与すると、腸内細菌叢が変化し、その結果腸炎が抑制された。IgA抗体と腸内細菌との相互作用はまだ未知の部分が多く、今後のさらなる基礎研究が必要であるが、IgA抗体を腸内細菌叢改善薬として利用する可能性について議論する(新藏先生記)。新藏先生はPD1抗体で名高くかつ免疫学の大家の本庶研究室の中心的研究者でおられました。初代医学部長の佐々木正五先生が研究テーマとされていた腸内細菌叢の制御が現在分子的に解明されつつあり、それによる疾患の治療へのアプローチが見え始めています。多数のご来聴をお待ちします。(木村記)
●2018.9.27|Medical education and patient safety
Dr.Melvin S. Blanchard
Professor of Medicine, Department of Internal Medicine, Washington University School of Medicine
司会:柳秀高(内科学系総合内科学)

Dr. MELVIN BLANCHARD, MD, FACPはセントルイスにあるワシントン大学医学部付属病院内科プログラムディレクターであり、卒後教育の責任者である。また、Alliance for Academic Internal Medicine という内科プログラム全体を統括する外部団体の理事も兼任されている医学教育の専門家である。日本でも初期研修が必修化されて医学教育の重要性が認識されているが、医学部教員として医学教育そのものを学ぶ機会は稀である。“臨床医学はサイエンスに基礎を置くアートである”という言葉をのこしたウィリアム・オスラーが始めたベッドサイドラーニング以降、世界の医学教育を牽引してきた米国に学ぶところは未だに多い。Dr.Blanchardはワシントン大学医学部の教員であるとともに、Barnes-Jewish Hospital という名門病院の内科プログラムディレクターを努めている。昨年にはAccreditation Council for Graduate Medical Education (ACGME)からParker J Palmer Courage to Teach Awardという、innovativeな教育を行ったプログラムディレクターに送られる伝統ある賞を受賞するなど、医学教育界の第一人者とされている。良医の育成を目標に掲げる東海大学医学部および附属病院において最も重要な案件の一つである若手の育成、医学教育の充実のために重要なご講演を賜ることができると考えており、医学教育に携わる教員の受講が望ましいと思われる。
●2018.10.1|慢性疾患の医療管理物:曖昧を激しく反省するシリーズ「胃瘻の管理とトラブルシューティング」
吉田賢史 先生
みその生活支援クリニック・亀田クリニック 在宅診療科 医員
司会:小澤秀樹(内科学系総合内科学)

高齢者社会となり、当院においても胃瘻、気管切開、尿道留置カテーテル、皮下ポートなどの医療管理物を利用して退院されていく患者さんが多く見られます。患者さんが退院後により質の高い生活を送っていただくためには、私たち医療者は医療管理物についてよく知っておく必要があります。本日講演をしていただく吉田賢史先生は、亀田ファミリークリニック館山・家庭医療科で研鑽された家庭医療専門医で、現在、亀田クリニック在宅医療部・みその生活支援クリニックに勤務され、相模原市、町田市などで在宅医療を中心のご活躍されている先生です。訪問診療などで実際に経験したことを医学的根拠の有無をふまえて系統的に講演していただけます。今回は「慢性疾患の医療管理物:曖昧をはげしく反省するシリーズ」と題して胃瘻についてお話していただけます。すべての医療者において、必携の内容ですのでぜひご参加ください。
●2018.10.25|免疫代謝を介したPD-1阻害がん免疫治療の増強効果
茶本健司 先生
京都大学大学院 医学研究科免疫ゲノム医学・准教授
司会:幸谷愛(内科学系血液・腫瘍内科学)

抗PD-1抗体を用いたがん免疫治療はがん治療分野を再活性化させ、がん免疫治療を第4の治療法へと変貌させた。しかし実際は、不応答性の患者もまだ多く存在する。現在臨床で行われている免疫治療法のほとんどが、PD-1阻害に基づくものであることを考えると、この不応答性の原因を追求し改善策を施すことは急務である。PD-1阻害治療に不応答性の原因は、主に「がん細胞側」と「宿主免疫側」の2つにわけられるが、免疫側の違いに着目した研究はあまり多くない。我々はT細胞の代謝状態もPD-1阻害治療の感受性に大きく寄与すると考えT細胞の免疫代謝を中心に研究を進めている。近年の研究から、T細胞メタボリズムがT細胞の分化・運命決定に大きく貢献していることが明らかになってきた。脂肪酸酸化と酸化的リン酸化を利用してT細胞のエネルギー産生を行うミトコンドリアは代謝リプログラミンにおいて最も重要なオルガネラであると言っても過言ではない。特に、ミトコンドリアはエネルギー産生と同時に活性酸素(ROS)を産生し、このROSはmTORやMycの活性化、またその後のサイトカイン産生に重要である。我々は、ミトコンドリアの電子伝達系を活性化するミトコンドリア脱共役剤がROS依存的に抗腫瘍免疫を活性化することを見出した。これらの下流シグナルにはmTORのみならず、AMPKがあり、共にミトコンドリア活性の鍵分子であるPGC-1aの経路を介していることを明らかにしてきた。また近年の報告から、PD-1を阻害するとT細胞の機能回復と同時に解糖系を中心とした最終分化が進み、T細胞がアポトーシスに陥ることが明らかになってきた。我々は、この最終分化によるアポトーシスが、effector killer T細胞の数の減少を引き起こし、不応答性の原因の一つになり得ると考えている。PGC-1aを中心としたT細胞のエネルギー代謝制御により、T細胞の分化・寿命を改善し、PD-1阻害による抗腫瘍免疫を改善できることを実証してきた。本セミナーではT細胞を中心としたROS, mTOR, AMPK, PGC-1a等のkey playersとT細胞の分化・活性化の関連性を紹介し、抗腫瘍免疫の増強に向け、どのような戦略が考えられるか議論したい。
●2018.11.2|色素細胞系の機能解析
山本博章 先生
長浜バイオ大学 バイオサイエンス学部 学部長・教授
司会:木村穣(基礎医学系分子生命科学)

哺乳動物は2系譜のメラニン色素細胞をもつ。一方は網膜色素上皮細胞に至る系譜で視覚機能に必須である。他方は神経冠(堤)に由来し、高い移動能で皮膚を始め様々な組織や器官に定着するメラノサイトである。我々はこれら色素細胞の発生と機能発現の機構に興味を持ってきた。これら両系譜の発生には転写因子Mitf (Microphthalmia-associated transcription factor)の機能が必須である。今回は、メラノサイトを発生させられない当該遺伝子の潜性の1アレルであるMitfmi-bwを対象にしたメラノサイト機能の解析を紹介する。黒眼白毛色のこのホモ接合体は内耳のメラノサイトを欠損し難聴である。我々は内耳メラノサイトにいわゆる「解毒酵素」Gsta4の高い発現を見出した。雑音を聞かせたげっ歯類の内耳に激しく亢進したメラニン合成を観察した報告も考慮すると、皮膚炎症への応答だけでなく、広く生態学的ストレスに応答するメラノサイトとメラニン合成能の進化的意義を考えたくなる。ところで、視覚に必須の網膜色素上皮の外側に形成される脈絡膜ではよく発達した血管網がメラノサイトによって密に覆われている。前述の黒眼白毛色個体では当該組織の脈管系がひしゃげているように見えることを見出した。当該領域に生息するメラノサイトの機能についても考察する。薄暗いハビタットでメラノサイトは何をしているのか?山本先生はメラニン色素細胞の多彩な生物学上の機能に関して研究を続けてこられました。今回はそれをまとめてお伺いする良い機会かと思います。多くの方々にご参加いただけると幸いです。
●2018.11.8|常在細菌叢と消化管疾患
鎌田信彦 先生
Assistant Professor, Division of Gastroenterology, Department of Internal Medicine,University of Michigan Medical School
司会:市川仁志(内科学系消化器内科学)

炎症性腸疾患などの消化管疾患患者では腸内細菌叢の撹乱と病態の関連が強く示唆されている。しかしながら、腸内細菌叢の乱れがどういった要因で惹起されるのか、乱れた腸内細菌叢は病気の原因なのか結果なのか、もし原因なのであれば、どのように乱れを是正することが出来るのかなど不明なことも多く、更なる研究が必要とされている。我々の研究室では、炎症性腸疾患における腸内細菌の乱れと病態への関与に注目している。我々は、無菌動物に患者由来糞便を定着させたノトバイオートを用い、炎症性腸疾患における腸内細菌叢の乱れと消化管炎症や合併症(消化管感染、線維化、癌)の関連、疾患関連細菌の同定、炎症性腸疾患治療を目的とした腸内細菌編集技術の開発などの研究を行なっている。本講演では、炎症性腸疾患をと常在細菌叢の関わりについて、我々の研究室の最新の知見を紹介する。
●2018.11.16|生理学的な培養肝組織構築を目指して
酒井康行 先生
東京大学大学院 工学系研究科化学システム工学専攻 教授
司会:稲垣豊(基盤診療学系再生医療科学)

肝組織培養の究極の目標は、肝臓が有する多様な機能をできるだけ生体のそれに近く発現させつつ、しかも長期にインビトロで実現することである。以前から様々な培養系が提案されてきたが、依然として上述の目的は達成されていない。近年、細胞ソースおよび培養技術の両面において格段の進捗が見られており、それらに基づきインビボ肝微小環境を再構成することが重要となる。インビトロ培養とインビボ環境の重要な違いのひとつは、細胞が接触する液体中の酸素量であり、実に70倍の違いがある。このため、培養液の流れのないディッシュやプレートを用いる静置培養では、培養液の厚みの中での酸素拡散が律速となり、肝細胞の酸素要求量が全く満たされないこととなる.このことは既に1960年代に指摘されていたが、抜本的な改善がなされないまま現在に至っている。本講演では、演者らが行ってきた酸素透過膜上での各種肝細胞の培養の結果と、それを用いた新たな肝組織モデル構築の試みを紹介しつつ、今後の展望を述べる。
●2018.11.27|酸素ラジカルはどのようにして突然変異を引き起こすのか?
真木寿治 先生
奈良先端科学技術大学院大学 教授
司会:木村穣(基礎医学系分子生命科学)

老化や発がんなどの原因として酸素ラジカル(活性酸素種)による細胞や遺伝子の傷害が広く認識されているが、その根拠の多くは寿命や発がん率と摂取する食物などに含まれる抗酸化物質との関係を調べた疫学的なものである。細胞内で実際に発生する酸素ラジカルがどのようにして老化を引き起こすかについては、不明な点が多い。この問題にアプローチする上では、細胞内のDNAが酸素ラジカルの影響をどのように受けているのかを知ることが重要と考えられる。この講演では、通常の環境で生育している細胞の中で生じる酸素ラジカルによる低レベルのDNA損傷(酸化DNA損傷)を定量的に検出する方法を紹介し、それを用いた最近の研究成果を報告する。まず、酸化DNA損傷の発生が細胞を取り巻く環境内の栄養(糖やアミノ酸)、酸素濃度、pHに大きく影響されることを見いだした。これらの要因は細胞内の過酸化水素の発生に影響する場合もあるが、酸化DNA損傷の発生には過酸化水素濃度よりも細胞内遊離鉄イオン濃度がより大きな役割を果たしていることが判明した。また、抗がん剤であるヒドロキシウレアや抗生物質も細胞内鉄イオン濃度を変化させて酸化DNA損傷を誘発することも明らかになった。大腸菌を用いた遺伝学的解析の結果、通常の細胞ではDNA修復の能力が過剰であるため、酸化DNA損傷は突然変異を誘発する力は弱いが、逆に染色体再編を誘発する力は強いことも示された。生体内のがん細胞の微小環境との関連についても議論する(真木先生記)。真木先生はDNA複製で名高いA.Kornbergの研究室に留学しておられたこともあり、昔からDNAの変異メカニズムについて一貫して研究を続けてこられました。がんを初めとする種々の疾患にも関わるDNAの突然変異について重要な基礎的知見についてのお話をお聞きできると思います。多数のご来聴をお待ちします。(木村記)
●2018.12.13|Why is genetics important?
Ros J Hastings, BSc,PhD,FRCPath,
Oxford University Hospitals NHS Trust/CEQAS Director
司会:和泉俊一郎(専門診療学系産婦人科学)

Genetics is an essential tool for diagnosis as well as patient and family management. Clinicians across multiple disciplines including Paediatrics, Endocrinology, Haematology, Molecular Pathology, Oncology, Neurology, Preimplantation genetics, Fertility and Obstetrics & Gynaecology need genetic analysis for diagnosis or to provide prognostic indicators for the management of genetic disease/disorders. Historically genetic testing was limited to testing for rare or common genetic disorders prenatally and postnatally and for establishing a genetic basis of cancer and leukaemia. In recent years, genetic testing has expanded exponentially due to many high profile national projects and the advent of new technologies such as the next generation sequencing. With the introduction of these new genetic tests and technologies come new challenges in interpreting the clinical significance of the genetic profiles and the introduction of individualised medical treatment (personalised medicine). This genomic information can also be used to prevent adverse drug reactions and minimise harm to patients through pharmacogenetics. Interpretation of test results is a key component of a genetic laboratory test report, ensuring the full understanding of the results by the referring physician, including potential implications for the patient and the family. These new technologies require additional training and competence assessment of staff to analyse and interpret the results as well as a close collaboration between laboratory and clinician. In addition, the variable approaches employed to report the results emphasises the need for external assessment and guidelines to promote consistency and ensure high quality testing for the benefit of patients. External quality assessment (EQA) enables laboratories and clinicians to assure the accuracy and quality of their diagnostic service as well as providing educational feedback. EQA involves the analysis and interpretation of the same clinical scenario by multiple participants, providing an ideal means to study reporting practices of laboratories worldwide as well as contributing to improving and validating the overall quality of the genomic genetic service to the user. GenQA is an EQA provider that offers over 80 EQAs covering Inherited and Acquired genetics within the areas of Cytogenomics, Haematology, Newborn Screening, Non-invasive prenatal testing (NIPT), Molecular Genetics, Molecular Pathology, Prenatal Diagnosis, Preimplantation Genetics, Clinical Genetics and Counselling. In addition, there are genotyping and interpretation only EQAs, educational EQAs, a competency and training tool (G-TACT) and a tissue assessment EQA (Tissue-i). Technical EQAs are provided to cover next generation sequencing and DNA extraction.This talk will give an overview of why Genetics is important with illustrations from EQA case scenarios. In addition, this talk will discuss how EQA has improved the classification of the pathogenicity of variants as well as feedback from the implementation of G-TACT - a web-based tool to for training and competence assessment for line managers.
●2018.12.26|脂肪酸を基軸とする「代謝-免疫-疾患」スパイラルの分子機構解明
遠藤裕介 先生
公益財団法人かずさDNA研究所 先端研究開発部オミックス医科学研究室 室長
千葉大学大学院医学研究院オミックス治療学(兼)
司会:穂積勝人(基礎医学系生体防御学)

近年、脂肪組織においてのみならずがんや炎症病態などの疾患局所においても代謝-免疫システムのクロストークの重要性が明らかとなっている。免疫細胞の中でも、T細胞は分化段階によって細胞サイズ・増殖能・サイトカイン産生などその細胞特性が劇的に変化することから、最も代謝の影響を強く受ける細胞の一つである。事実、ここ数年間の先行研究にて、 T細胞は分化段階(ナイーブ➡エフェクター➡記憶T)に応じて、全く異なる代謝経路を使用していることが明らかになりつつある。本セミナーでは、T細胞の分化・機能獲得における代謝経路、特に「脂肪酸代謝」の重要性について解説したい。また、我々が発見したT細胞分化を司る脂肪酸代謝メタボリックリプログラミングのユニークな分子制御メカニズムについて、最新の知見を交えて解説する。
●2019.1.16|ヒト胚・幹細胞研究に関連する倫理指針について~ES指針の改正を中心に~
神崎誠一 先生
文部科学省研究振興局 ライフサイエンス課生命倫理・安全対策室 専門職
司会:木村穣(基礎医学系分子生命科学)

ヒトES細胞は、医学及び生物学の発展に大きく貢献する可能性がある一方で、人の生命の萌芽であるヒト胚を滅失させて樹立されたものであり、また、全ての細胞に分化する可能性があることに鑑み、適切な研究運用のために指針が整備されています。今般、ES細胞の海外機関への臨床目的での分配を可能にするとともに、これまでのES指針の運用状況を踏まえ、その他の分配や使用計画書の記載・変更に関する手続等の緩和に関する指針改正案をとりまとめました。今回のセミナーでは、ES指針改正案の内容を中心に御説明します。また、その他のヒト胚・幹細胞研究に関連する倫理指針の策定・改正状況についても御紹介します。(神崎先生記)神崎先生は文部科学省に入省される以前は、国立成育医療研究センター研究所において実際にヒトES細胞を用いた研究を行なっておられたとお聞きしております。今後、東海大学において組織幹細胞やiPS細胞を用いた研究のみならず、ES細胞を用いた研究も進展する可能性があり、この講演会を教育・研修の場として、医の倫理委員会との共催で開催することとしました。改正予定の指針などの内容を詳しくお聞きしたいと思います。多数のご来場をお待ちします。(木村記)
●2019.1.17|漢方医学について医療従事者の中で共有したい事
野上達也 先生
富山大学大学院 医学薬学研究部 助教/富山大学附属病院 診療講師
司会:新井 信(専門診療学系漢方医学)

漢方医学は中国医学に起源を持つ、我が国独特の伝統医学です。明治維新の医療制度改革により一時衰退しましたが、一部の篤志家によって引き継がれ、1950年に日本東洋医学会が設立されるなどして復興が進み、1976年に漢方エキス製剤が薬価基準に収載され、医師は漢方薬を「普通の薬」として使うことができるようになりました。全国的な医学教育のシステムにも2001年に医学教育モデル・コア・カリキュラムに「和漢薬を概説できる」という文言が盛り込まれたことで正式に復帰することができ、2018年には「漢方医学の特徴や、主な和漢薬(漢方薬)の適応、薬理作用を概説できる。」とより突っ込んだものになっています。このような背景から今日では漢方薬は様々な分野で幅広く用いられ、研究も進み、日常診療に欠かせない薬剤になっておりますが、その一方で、漢方薬の誤用や副作用などの問題も表面化しております。今回は総論的な内容ではありますが、漢方医学を日常診療でより有意義に活用するために、医師を初めとした全ての医療従事者の中で共有しておきたいことについて考えてみたいと思います。
●2019.1.18|唾液腺癌の病理診断:最近の進歩
長尾俊孝 先生
東京医科大学 人体病理学講座 教授
司会:大上研二(専門診療学系耳鼻咽喉科学)

唾液腺癌はいわゆる希少がんに含まれるが、組織像が多彩な上、数多くの組織型や種々の亜型が存在しているため、一般病理医にとって診断に難渋することが少なくない。しかしながら、唾液腺癌において、病理診断は治療方針の決定や予後の予測に直結するため、実臨床においてきわめて重要である。他臓器癌と同様に唾液腺癌においても病理診断はWHO分類に基づいて行うのが一般的である。2017年にその改訂版が発刊されたが、これは1972年の第1版刊行以降、第4版目に相当する。2017 WHO分類では、唾液腺癌として19種類の組織型がリストアップされている。今回の改訂で最も注目される点は、「分泌癌」が追加されたことである。それに加えて、新たに「導管内癌」や「低分化癌」という名称の組織型も登場した。さらには、多型低悪性度腺癌は「多型腺癌」に名称変更され、嚢胞腺癌と粘液腺癌が腺癌NOSに包含された。唾液腺癌の病理診断においては依然としてHE染色標本による“読み”がその基本となるが、免疫染色や遺伝子解析が補助診断として有用である。例えば、唾液腺導管癌では、ARが95%以上の症例で陽性、HER2が約40%の症例で強陽性(3+)となるため、これらの免疫染色所見が本腫瘍の診断確定に役立つ。また、これらはホルモン療法や分子標的治療のコンパニオン診断としての側面も持つ。近年、遺伝子異常の中でも染色体転座によって形成される腫瘍特異的な融合遺伝子が種々の唾液腺癌において次々と見出されており、注目を集めている。現時点で判明している唾液腺癌の腫瘍特異的融合遺伝子には、CRTC1/3-MAML2(粘表皮癌)、MYB/MYBL1-NFIB(腺様嚢胞癌)、ETV6-NTRK3/RET(分泌癌)、EWSR1-ATF1/CREM(明細胞癌)、NCOA4/TRIM27-RET(導管内癌)などが挙げられる。これらの融合遺伝子は、唾液腺癌の診断的側面のみならず、将来的に有効な治療標的となる可能性があり、治療面においても意義を持つものと考えられる。とくに粘表皮癌におけるCRTC1/3-MAML2と分泌癌におけるETV6-NTRK3は、RT-PCR法によってパラフィン包埋切片からでも容易に検出可能で、その同定は高い診断的価値を有する。その他にも、多型腺癌(PRKD1)、基底細胞腺癌(CTNNB1)、上皮筋上皮癌(HRAS)においても特異性の高いhotspot遺伝子点突然変異が報告されている。元来病理診断は、標本上の形態像のみを捉えて下されるものではなく、臨床所見、画像所見、および蛋白・遺伝子レベルの情報を総合的に把握して判断されるものであるが、唾液腺癌においてもそれが求められる。本講演では最新の知見を盛り込んだ唾液腺癌の病理診断の実際について解説する。
●2019.2.26|ホスピタリストと医療安全、病院の質改善
野木真将 先生
クイーンズメディカルセンター ホスピタリスト
司会:柳秀高(内科学系総合内科学)

野木真将先生は日本の第一線の病院での研修を修了された後、2011年よりハワイ大学内科での研修を開始し、2014年に米国内科専門医(ABIM)を取得しました。その後、ハワイ大学内科チーフレジデントを努め、医学教育フェローシッププログラムを修了しました。その後、米国内科学会上級会員も取得され、米国FAIMER-英国KEELE大学医学教育マスター(MHPE)取得予定であり、医学教育に大変造詣が深い先生でいらっしゃいます。日本も今後、専門医制度が実力を担保した形で発展していく必要があるわけですが、現状のままで本当にうまくいくのか大いに疑問の残るところです。このような時期に医学教育の専門家である野木先生に医療安全や診療の質向上との関連で医学教育、総合医の育成についてお話し頂き、日本の医学教育の将来についてディスカッションすることは極めて有益であると考えます。多くの教員、研修医、医学生の参加を期待します。
●2019.2.28|遺伝子治療の現況と新規遺伝子治療法の開発に向けた基礎および前臨床研究
上村顕也 先生
新潟大学大学院 医歯学総合研究科消化器内科学分野 講師
司会:稲垣豊(基盤診療学系再生医療科学)

遺伝子治療は、『種々の疾患に対して、遺伝子(核酸)を細胞内へ投与することによって病気の治療、予防を行うこと』と定義される。しかしながら、これまでの遺伝子治療は低下した細胞機能を回復する治療が中心であった。ヒトゲノムプロジェクトにより解明された遺伝情報、高速シークエンサーによる塩基配列解析、シングル・セル解析など、修復の標的となる情報が容易に得られる状況となり、遺伝子情報からテーラーメード治療が可能となってきたことから、ゲノム編集の応用も含めた、遺伝子治療の新たなステージへの発展が見込まれ、その臨床応用が以前にも増して期待されている。特に、難治性疾患に対する新規治療法としての応用は、『復活した遺伝子治療』の重要課題である。その中でも、遺伝子を目的の臓器や細胞に選択的にデリバリーするため、ウイルスベクターを使用する方法論が臨床研究で使用されてはいるが、一方で、ウイルスベクターを使用しない非ウイルスベクターによる遺伝子導入法も注目され、薬理学的な化学修飾、あるいは電気、超音波、水圧、などの物理的方法が検討されている。本講演では、演者らがこれまでに行ってきた、ハイドロダイナミック遺伝子導入法を応用した遺伝子治療法の検証と肝硬変などの疾患に対する遺伝子治療法の研究、最近の遺伝子治療の進歩と今後の展開について紹介させていただきたい。
●2019.3.18|Integrating the wildlife disease surveillance and ecology for understanding the ecology of zoonotic disease(野生動物の感染症サーベイランスと生態学:人獣共通感染症の生態学的理解に向けた取り組み)
Dr. Chen-Chih Chen(陳貞志 先生)
台湾国立屏東科技大学・野生動物保育研究所・助理教授
司会:橘裕司(基礎医学系生体防御学)

The pathogens carried by wild animals are considered as a primary source of emerging infectious diseases. Therefore, for recognizing and managing the risk, it is essential to understand the epidemiology of wildlife diseases. The objectives of disease surveillance are to detect the distribution of disease occurrence, identify the factors affect the distribution, and to assess its impact on a specific population. Due to the hiding natural of wild animals in their habitat and carcasses removed rapidly by scavengers, the majority of disease occurrences in wild animals are invisible and unrecognized. Furthermore, although we can sometimes notice the disease induced mass die-offs on the population of wild animals, evaluation of the disease impact in a specific geographic region or time period is usually a challenge. This situation is commonly seen especially in the passive surveillance program. Wildlife disease surveillance is the essential information for managing the wildlife mediates zoonotic diseases and conservation strategies. However, without the input from the discipline of wildlife ecology, the puzzle of wildlife disease would be impossible to complete. In this talk, I present studies focus on wildlife diseases surveillance and explain how the research methods adopted from wildlife ecology be integrated into the researches of wildlife diseases.
●2019.3.29|最近の心不全診療におけるHFpEFの重要性と人工知能による心エコー図診断
Dr. Carolyn Lam Su Pin
The National Heart Centre, Singapore
Senior Consultant Duke-NUS Cardiovascular Academic Clinical Program・Professor
司会:後藤信哉(内科学系循環器内科学)

心エコー図検査は循環器疾患の非侵襲的検査として広く施行されている。心臓の動的機能を評価する技術なので動画解析が必須であった。動画解析は静止画解析よりも困難性が高い。コンピューターによる自動診断が困難な領域であった。コンピューターと情報通信技術の革新的進歩により膨大な情報を有する動画の自動診断も技術的には可能となりつつある。特にニューラルネットワークを用いた人工知能では、時系列の情報の学習も可能である。膨大な過去の心エコー図の情報から、新規の児童診断技術の確立を目指した研究を紹介する。人工知能による動画学習には汎用性がある。各種検査に関わる広い職種の聴講を期待している。
●2019.4.15|CRISPRing genomes made easy
Dr. C.B.Gurumurthy
University of Nebraska Medical Center, Developmental Neuroscience, Munroe Meyer Institute for Genetics and Rehabilitation. Director of the UNMC ’s Mouse Genome Engineering Core Facility. Associate Professor
司会:大塚正人(基礎医学系分子生命科学)

The CRISPR-Cas9 tool has radically changed the way how the decades-old traditional transgenic technologies are practiced lately. Our lab has pioneered some breakthrough CRISPR based technologies to create complex animal models including long cassette knock-ins and conditional knockout mouse models. Our technological contributions, particularly Easi (Efficient additions with ssDNA inserts)-CRISPR have been widely adapted in the animal transgenesis field. In my presentation, I will discuss how the latest technological advances have redefined the traditional transgenic methods and discuss the potential applications of Easi-CRISPR for cell genome engineering.
●2019.4.17|Chromatin landscape modifications in human cancers
Lyuba Varticovski 先生, MD
Associate Staff, LRBGE
Center for Cancer Research, NCI, NIH
司会:加川建弘(内科学系消化器内科学)

演者が所属するLaboratory of Receptor Biology and Gene Expression(LRBGE), NCI , NIHでは様々な癌の遺伝子解析をしていますが、今回のセミナーでは膀胱癌におけるクロマチンランドスケープの解析例を紹介していただきます。膀胱癌の原発巣と転移巣において、クロマチンランドスケープをDNase I hypersensitivity with deep sequencing (DHS-seq) , RNA-seq, genome sequencingの手法を組み合わせて解析した結果、転移に伴ってオープンクロマチン領域の著明な変化が認められました。このような変化は膀胱癌進展機序の解明、及び、新規バイオマーカーにつながるのではないかと研究を進められています。興味のある先生方のご来聴を期待しております。